当科の特色
対象疾患
虚血性心疾患(狭心症、急性心筋梗塞)
心臓(心筋)を栄養する冠動脈に動脈硬化が起こりそれにより心筋に血液不足(心筋虚血と言います)が生じたときに胸痛を起こす病気の総称。
狭心症
冠動脈が動脈硬化で狭窄しており、運動などにより一過性に心筋虚血を生じて胸痛や胸部圧迫感などを起こす(労作性狭心症と呼びます)。痛みはしばしば左肩や腕、顎、みぞおちの痛みを感じる方もおられます。また、冠動脈が痙攣することで狭窄する冠攣縮性狭心症もあります。検査は運動負荷心電図検査(マスター負荷心電図検査、トレッドミル検査)や心筋核医学検査などで心筋虚血を同定する方法と冠動脈造影CTにより非侵襲的に冠動脈狭窄を評価する方法があります。狭心症が疑わしければ入院にて心臓カテーテル検査を行います。心臓カテーテル検査で冠動脈に狭窄を認めた場合にはその場でカテーテル治療(経皮的冠動脈形成術:PCI)を行うか、バイパス手術が適応かを判断します。当科では原則手首の動脈(橈骨動脈)からカテーテル検査を行い、できる限り同時にPCIを行うように身体への負担軽減に努めております。さらに最近では検査後の止血時間を短縮するために親指の付け根の動脈(遠位橈骨動脈)からカテーテルを行うこともしています。心臓カテーテル検査は2泊3日、経皮的冠動脈形成術は3泊4日の入院で行っております。
労作性狭心症 右冠動脈遠位部へのPCI
急性心筋梗塞
脂肪などが血管壁に沈着し(プラーク)、冠動脈に狭窄が起こり、そのプラークが破れて血の塊(血栓)がつまり閉塞して心筋が壊死する病態です。冷汗を伴うような強い胸痛が20分以上続きます。発症から6時間以内に血流を再開しないと閉塞部位の心筋は完全に壊死します。心筋梗塞の治療は発症からできるだけ早く閉塞血管を再開通できるかが重要になります。緊急で治療を行ったあとはICUで集中治療を行い、その後、運動負荷試験を行い合格すれば一般病棟へ移動します。そして、心臓リハビリテーションを行い、退院を目指します。入院期間は心筋梗塞の重症度によりますが、2週間から4週間になります。
急性心筋梗塞 左冠動脈前下行枝へのPCI
閉塞性動脈硬化症
加齢や高血圧、高コレステロール血症、糖尿病、喫煙などが主な原因で、冠動脈以外の末梢動脈(下肢動脈、腎動脈、鎖骨下動脈など)に動脈硬化で狭窄を生じ、様々な症状を呈します。
下肢閉塞性動脈硬化症
歩行により足の痛みやだるさを感じ、休むと改善する間欠性跛行が主な症状です。腰椎疾患との鑑別が必要になり、足関節上腕血圧比(ABI:ankle brachial pressure index)検査が重要です。つまり、足関節と上腕で測定した血圧の比で、正常人では、下肢(足関節)血圧が上腕血圧より高くなりますが(ABI≧1)、下肢動脈硬化にて足関節の血圧が低下し、ABIが低下(ABI≦0.9)すると下肢閉塞性動脈硬化症を疑い、下肢動脈造影CT検査やカテーテルによる造影検査を施行します。運動療法や薬物療法にて間欠性跛行が改善しない場合は経皮的動脈形成術(EVT)を検討します。また、腎機能障害の方には炭酸ガスを用いた造影検査および治療を積極的に行っております。経皮的動脈形成術は冠動脈と同様に3泊4日の入院で行っております。
左下肢閉塞性動脈硬化症 左浅大腿動脈遠位部へEVT
右下肢閉塞性動脈硬化症 右総腸骨動脈へ炭酸ガスを用いたEVT
不整脈(上室性頻拍症、心房細動、心室性不整脈、徐脈性不整脈)
脈が突然速くなったり(頻脈)、脈が遅くなったり(徐脈)、脈の間隔がばらばら(脈不整)になったりする状態で、それにより動悸や息切れ、ふらつきなどの症状が出ます。心不全や脳梗塞、突然死の原因となる不整脈もあります。心エコー検査で不整脈の原因となる心臓疾患の検索を行ったり、24時間ホルター心電図検査で日常生活内の心電図と自覚症状を観察し、症状があるときの心電図から原因となる不整脈を診断したり、電気生理学的検査で不整脈を診断し、頻脈性不整脈の場合カテーテルアブレーション治療を検討したり、徐脈性不整脈の場合ペースメーカ治療を検討します。有症候性の発作性心房細動に対するカテーテルアブレーションは大阪大学循環器内科不整脈グループのサポート下で行っております。背景や病態に応じてリードの留置部位を検討します(右室心尖部もしくは右室中隔)。また、心不全合併例ではヒス束ペーシングも積極的に行っております。原則MRI対応のペースメーカを留置しております。さらに、リードレスペースメーカも導入しております。原因不明の失神に対しては植え込み型ループレコーダーを皮下に植え込んで不整脈の追跡を外来で行っております。
心不全を併発した発作性心房粗細動、完全房室ブロックに対するヒス束ペーシング
洞機能不全症候群に対して右室中隔へリードレスペースメーカを留置した
心不全
心臓は体中のあらゆる臓器に酸素と栄養がいきわたるように血液をポンプのような働きで全身に送っております。心不全とはいろいろな理由で心臓のポンプ機能が低下することで全身に十分な血液を供給できない状態を示す症候群です。症状は、息切れや疲れやすさ、尿量が少なることで体に水分がたまり体重が増えます。水分がたまるとむくみ、特に下肢にむくみがでます。そのため症状を改善させて、基礎心疾患の精査と病態評価に努め、その結果で治療法を検討します。超高齢化社会をむかえた日本では虚血性心疾患などの動脈硬化疾患よりも心不全・心房細動の発生数が多く(80-84歳の心不全発症数は75-79歳の約2.5倍)、今後急激に心不全発症率が増加すると予想されるため、心不全終末期緩和療法も含めた包括的な加療が重要になってきます。
心不全の原因となるような疾患
高血圧性心疾患、拡張型心筋症、虚血性心筋症、肥大型心筋症、弁膜症(大動脈弁狭窄症、大動脈弁閉鎖不全症、僧帽弁狭窄症、僧帽弁閉鎖不全症など)、感染性心内膜炎など
具体的な治療法
- 急性期の集中治療(循環作動薬の持続点滴投与、人工呼吸器装着、補助循環装着など)
- 薬物治療
- 心臓リハビリテーションおよび心不全教育
- 虚血性心疾患に対するPCIやバイパス手術
- 不整脈に対するカテーテルアブレーションやペースメーカ手術
- 弁膜症に対する外科的手術やカテーテル手術
- 心筋症に対する外科的手術やカテーテル手術
- 睡眠時呼吸障害に対する陽圧換気療法
感染性心内膜炎による大動脈弁閉鎖不全症、うっ血性心不全の経胸壁心エコー像
大動脈疾患(動脈瘤、動脈解離)
肺血栓塞栓症・下肢静脈血栓症
主に下肢静脈に血栓ができ、その血栓がはがれて肺動脈を詰める(急性肺動脈血栓塞栓症)病気(いわゆるエコノミークラス症候群)のことで、場合によっては命を落とす危険な病気です。自覚症状は片側性の下腿浮腫や労作時息切れなどで、下肢静脈エコーや造影CT検査(下図)などで診断します。治療は血栓を溶解させる抗凝固療法(点滴や内服)、肺塞栓の発症の危険性の高い症例には、下大静脈フィルターを留置します。
診療実績
2021年度 | 2022年度 | 2023年度 | |
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手術件数 | |||
経皮的冠動脈形成術 | 337 | 358 | 409 |
経皮的末梢血管形成術 | 30 | 24 | 25 |
経皮的カテーテルアブレーション | 103 | 140 | 133 |
肺動脈隔離術 | 65 | 113 | 116 |
ペースメーカ (新規) | 69 | 54 | 46 |
リードレスペースメーカ | 24 | 15 | 10 |
放射線検査 | |||
冠動脈造影CT | 371 | 498 | 398 |
心臓MRI | 14 | 15 | 19 |
心筋シンチグラフィー | 379 | 242 | 248 |
生理機能検査 | |||
経胸壁心エコー | 2491 | 2659 | 2748 |
経食道心エコー | 80 | 120 | 100 |
末梢血管エコー | 891 | 887 | 874 |
ホルター心電図 | 430 | 409 | 442 |
負荷心電図 | 209 | 248 | 266 |
マスター負荷心電図 | 495 | 614 | 771 |
地域の先生方へ
- 胸痛、息切れ、動悸、浮腫など心疾患はもちろん、心疾患が疑われる患者さんはお気軽にご紹介ください。土曜日午前診で診察され、対応に苦慮されるような場合でもすみやかに対応させていただきます。
- ご紹介いただいた患者さんは、外来や入院にて検査・治療を行い、病状が安定しましたら先生方へ逆紹介させていただきます。ご不明な点や病状に変化がでるようでしたらいつでもご連絡いただければ対応させていただきます。
- 当科は委託検査としてホルター心電図、経胸壁心エコー、トレッドミル負荷心電図を行っております。冠動脈造影CTに関しては、撮影条件とβ遮断薬の前投与が必要なことから委託検査は行っておりませんので、当科外来へご紹介ください。
- 2019年9月より新たなCT装置としてキャノンメディカル 320列 Aquilion ONEを導入しました。従来のCTと比べて被爆量を低減、1beatで撮影可能、撮影時間の短縮、などが期待できます。緊急性が疑われる狭心症患者さんに関してはできる限り受診当日に冠動脈造影CTを撮影しておりますのでお気軽にご紹介ください。
320列 Aquilion ONE
労作性狭心症疑いに対してAquilion ONEで撮影した左前下行枝の高度狭窄
施設認定
- 日本循環器学会認定循環器専門医研修施設
- 日本心血管インターベンション治療学会研修施設
- 日本不整脈心電学会認定不整脈専門医研修施設
- 日本超音波医学会認定超音波専門医研修施設
- 日本脈管学会認定研修指定施設
- 日本高血圧学会高血圧認定研修施設
- 下肢静脈瘤に対する血管内治療実施基準による実施施設